流れる水のはたらき(川の働き)大実験

砂場での流れる水のはたらき(川の働き)大実験

流れる水のはたらきの実験に関して,
筆者が理科支援員等配置事業等で行なった,
校庭の砂場でおこなう実験について,
実際の河川での自然現象の原理と,
実際の河川と実験との条件の違いを踏まえ,
流れる川のはたらき実験について,
実験のノウハウを含めて紹介しています。

(元)山形大学地域教育文化学部 地域教育文化学科 生活環境科学コース 川辺孝幸


『砂場を利用した「流れる水のはたらき」実験のノウハウ
川辺孝幸,山形大学 教職・教育実践研究,6:7~17, 2011.7


上記をもとにした川の働き大実験の手順を示したビデオです.
『急流河川の特性を学ぼう ~砂場で川づくり~』
中部地方整備局静岡河川事務所HP防災情報安倍川・大井川の特性(教材ビデオ)


【テキスト版】

テキスト版の作成に当たって,一部加筆修正を行なっています.

山形大学 教職・教育実践研究,6:7~17, 2011.7

砂場を利用した「流れる水のはたらき」実験のノウハウ

-理科支援員等配置事業による小学校での実践等を踏まえて-


(元)山形大学地域教育文化学部 地域教育文化学科 生活環境科学コース
川辺 孝幸

流れる水のはたらきの実験に関して,筆者が理科支援員等配置事業などでおこなった,校庭の砂場でおこなう実験について,実際の河川で起こっている自然現象の原理と,実際の河川と実験との条件の違いを踏まえて,流れる川のはたらき実験について,ノウハウを含めて紹介する。

{1 はじめに2 「流れる水のはたらき」に関わる基本事項3 砂場をつかった流れる川の働き実験4 おわりに



1 は じ め に

 日本の都市の多くができはじめた場所は,扇状地の末端部(扇端部)や河口付近の微高地など,水陸の交通の便が良いという人的条件とともに,水はけが良く,水の便も良い自然条件の場所である。その後,都市の発達とともに,河川の氾濫原や扇状地の扇頂部までその範囲を広げてきた。このように,都市の発達してきた場所は,もともと,自然現象として,河川が,堆積物を生産して,運搬し,堆積させて作られてきた場所であり,そこに人間が生活することによって,必然的に,河川の作用による自然災害が生じることになる。

 小学校の理科では,このような人間の生活の場である土地の成り立ちと人間とのかかわりについて,第5学年および第6学年で,取り扱うことになっている(文科省学習指導要領)。
現行小学校学習指導要領第4節理科の第2各学年の目標及び内容〔第5学年〕C 地球と宇宙(2)では,「流れる川のはたらき」として,「地面を流れる水や川の様子を観察し,流れる水の速さや量による働きの違いを調べ,流れる水の働きと土地の変化の関係についての考えをもつようにする。ア 流れる水には,土地を削ったり,石や土などを流したり積もらせたりする働きがあること。イ 雨の降り方によって,流れる水の速さや水の量が変わり,増水により土地の様子が大きく変化する場合があること。」となっていて,流れる水のはたらきと土地の変化や災害との関連性を強調している。
 「流れる水のはたらき」に関して,実際に,土地の変化や災害との関連において,自然界でおこる現象を直接観察することはほとんど不可能であり,現実的には,ビデオ映像や,教室内での水路実験,野外に赴いての平常時の河川における観察などの取り組みがおこなわれている(たとえば,大瀧・川村,2006)。

 筆者は,よりダイナミックな現象での観察によって,より印象深く学習効果をあげられるのではないかとの観点,および,スケールモデルとしてより現実に近いモデル実験がおこなえるとの観点から,砂場を利用した「流れる水のはたらき」の実験を,過去2年間の理科支援特別授業で実施してきた。また,2010年度の免許状更新講習では,幅150cm,長さ4mの実験水槽を作成して実施した。一方,山形大学地域教育文化学部における担当授業では,幅約25cm,長さ約1.8mの,比較的小規模な水槽を使った実験もおこなっている。

 これらの実験を通して大切にしていることは,自然界でおこっている現象をより忠実に再現できるようにすることである。
 すなわち,自然界で,川の上流部でおこっている侵食現象に関しては,実際に山地の“侵食“を担っているのは,一次的には重力の作用であり,それによる山崩れなどによって粒子化して堆積した崩壊堆積物や土石流堆積物,さらにそれらが土石流などによって移動して堆積した二次堆積物があって,ようやく二次・三次的に,流れる水のはたらきの出番になる。
 また,堆積物を流して流れる河川の洪水流は,懸濁物質をたくさん含んだ密度・粘性の高い水であり,その流速も,平野に流れ出てきた扇頂部から扇央部にかけては,10mを超える場合もある。さらに,このような場所では,河川が土石流を流す場合もある。

 一方,平野に入った河川の洪水流は,時には河岸を侵食したり,洪水流が河川から溢れ出て堤内地(堤防によって河川流から守られた内側で,河川の外側)に流れ出して土砂を堆積させ,自然堤防を発達させる。
 さらに,海にまで流れ出た洪水流は,河口部で三角州をつくって土砂を堆積させる。

 河川において,このような「流れる水のはたらき」の現象がおこるのは,年に何回か発生する増水時や,何十年に1回に発生する大規模な増水のときのみで,通常は,河川には穏やかな澄んだ水が流れ,川遊びの場になったり,河川に隣接する場所でも,自然堤防に畑地や果樹園,街道や住宅地など,人の営みの場になっている。

 このような,平常時を含めた実際の様子を可能な限り忠実に再現することが,自然との付き合い方を含めて,「流れる水のはたらき」に対する理解を深めることができると考え,平常時の流れも含めて再現することにしている。

 以下に,筆者のおこなっている「流れる水のはたらき」の実験に関する実践を報告する。


2 「流れる水のはたらき」に関わる基本事項

 「流れる水のはたらき」のモデル実験をおこなうためには,まず,実際に自然界で起こっている現象とその原理を理解する必要がある。以下に,自然界における「流れる水のはたらき」にかかわる基本事項を整理してみる。

(1) 流れる水による侵食・運搬・堆積の水理学

 流れる水が静止している粒子に静止摩擦力を超える力を加えることができたとき,その粒子は動き出すことができる。すなわち侵食作用が起きたことになる。
 一方,流れる水が,動き出した粒子に動摩擦力を超える力を加えられる限り,粒子は動き続けることができ,運搬作用が継続する。動き続ける粒子に動摩擦力を超える力を加えることができなくなった時点で,粒子の運動は止まり,堆積作用がおきる。
 実際には,流れる水が粒子に加える力は,流れる水自体が粒子を押す力のほか,流れる水が粒子を避けることで粒子の上面では流速が速くなるために,ベルヌーイの定理によるベンチュリー効果によって粒子にはたらく負圧や,粒子の下流側に渦が生じることによる力などがあり,これらが粒子を動かそうとする力になる。
 一方,粒子と底面との間の静止摩擦力のほか,流れる水に対して粒子の並びが水の力を受けにくくしたり,粒子間に働く結合力によって,流れる水による力に対抗して粒子をその場に留めようとする。

 単純に流れる水から直接受ける力と粒子の静止摩擦力のみで考えると,粒子が流れる水から受ける力は粒子の投影面積,すなわち半径の2乗に比例し,静止摩擦力は,粒子の質量,すなわち体積は半径の3乗に比例するので,粒子を動かすのに必要な流れる水の速さは,粒子の半径に比例することになる。




図1 流速と粒子の侵食・運搬・堆積,および運搬形態との関係(Hjulstrom, 1935をもとに作成)


 すなわち,単純に考えると,粒子の大きさ(粒径)とその粒子を動かすことのできる流れの速さ(流速)との関係は直線関係になるが,実際には既述の要素が加わるために,図1の太線(侵食曲線)のように,小さい粒子の側で直線から大きく外れ,はるかに大きい力でないと動かない。また,大きい粒子では,逆に,より少ない力で動くことができる。これらの理由は,上述の,小さい粒子では,粒子の並びによって水の力が受けにくくなることや,粒子間に働く結合力が大きく影響してくるためであり,大きい粒子では,ベンチュリー効果による負圧や渦が生じることによる力が大きく働くようになるからである。

 図1では,太線で示す侵食曲線のほか,ある大きさの粒子が堆積するときの流速を細線(堆積曲線)で示してある。この場合は,侵食曲線と比べると,より遅い流速まで移動できることがわかる。移動中の粒子に働く摩擦力は,静止摩擦力より小さい動摩擦力であるからである。また,侵食曲線に比べて直線的である。大きい粒子側ではベンチュリー効果による負圧や乱流による影響は移動中も働くが,小さい粒子の場合の粒子の並びによる力の受けにくくさや粒子間の結合力は影響しないからである。

 以上のような,粒子の侵食・運搬・堆積にかかわる流速と粒径との関係は,実際の川においても,スケールモデル実験でも同じ関係にあり,スケールモデル実験をおこなう際の前提として,理解しておく必要がある。

(2) 上流から下流に向かって石ころは小さくなる

 川に堆積している石ころ=粒子の大きさは,大局的には,上流ほど大きく,下流ほど小さい。
 山が削られてできた大きい石が,下流に運ばれるにつれてぶつかり合って割れたり擦れ合ったりして小さくなっていくためもある。  しかし,基本的には,上流部の段階で,岩石が風化の過程を経て,粒子が生産され,土石流などによって移動し,流れる水のはたらきで侵食を受けるまでに至る段階で,さまざまな粒径の粒子が用意されており,それらの粒子が流れる水の働きによって侵食を受け,流れによって移動を開始するからである。




図2 川の上流から下流までの粒子サイズの変化


 流れる水によって運搬されているさまざまな大きさの粒子は,図1の堆積曲線の,それぞれの粒径に対応する流速になった時点で堆積する。
 河川水の流速は,重力の河床方向の分力が水を下流に流す力として働き,流れる水と川底や河岸との摩擦力が流れをとどめようとする力として働くので,河床勾配が大きい上流部ほど速くなり,河床勾配の小さい下流部ほど遅くなる。
 したがって,図2のように,1回の洪水によって,上流部では大きい粒子が,より下流ほど小さい粒子が分布することになる。

 上流から下流への河床礫の礫径分布に関して,図1からは,もう一つ重要なことがある。
 それは,同じ粒径の粒子で比べると,堆積は侵食に比べると遅い流速で起こるということである。
 すなわち,ある洪水の最大流速によって,下流のある地点まで運ばれた粒子は,その地点で,その粒子が運ばれてきたときより速い流速の流れ,すなわち,より規模の大きい洪水がやってこなければ,再び動くことはできない,ということである。

 実際には,他の粒子の衝突によって移動方向への力が加わることや,停止している粒子の下流側で,その粒子を支えている小さい粒子が侵食されることで,静止摩擦力が低下したり,侵食された窪みに転がり落ちることなどをきっかけに再移動できるが,移動距離はたいしたことはない。
 粒子がその場にとどまっている間に風化を受けてもろくなり,大きな洪水が来たときに,ばらけてしまってより細かい粒子を生み出すことも珍しくない。

(3) 粒子の運搬形態-トラクション,躍動,浮流

 侵食によって流れる水の中に取り込まれた粒子は,下流に運搬されるときに,粒子の大きさと流速によって,流れによって引きずられたり転がったりして河床を動く場合や,河床から飛び上がってふたたび落下し,再び飛び上がって落下することを繰り返す場合,さらには,流れに乗ったまま流水中を漂い続ける場合もある。このような粒子の運搬形態は,それぞれ,トラクション(traction;牽引または転動),躍動(saltation),浮流(suspension)と呼ばれている(図3)。




図3 流水による粒子の運搬形態と,洪水時の水位と粒子のサイズ,運搬形態の時間的変化


 流れとそれによって動き出した粒子に働く力が,その粒子に働く重力と浮力の合力に及ばなかった時には,その粒子は河床から離れられずに,河床を引きずられたり転がって移動したりする。
 流れが速くなって揚力が大きくなったり,外力として他の粒子がぶつかったりすることで,粒子に働く重力と浮力の合力に打ち勝つと,粒子は流れの中に飛び込む。
 その際,重力と浮力,水中での落下時の粘性抵抗による力の合力に,流れの渦によって巻き上げる力,流れや落下の運動によって発生する揚力の合力が勝ると,粒子は河床にたどり着けずに,水中をいつまでも漂い続け,前者が勝ると,粒子は水中を落下して河床に衝突する。河床に衝突した粒子は,衝突の反力によって,再び水中に飛び上がる。

 このように,水中を運搬中の粒子は,その粒径と流速にかかわって,運動形態を異にする。
 このような運動形態と粒径・流速との関係を示したのが図3である。
 当然ながら,小さい粒子は,体積(質量)が小さくて表面積が大きいので運動の形態は浮流に,大きい粒子は,体積(質量)が大きいので,トラクションが基本になるが,流速が極端に速くなると,躍動で運動する。




図4 山形市緑町1丁目の馬見ヶ崎川左岸にみられる巨礫の躍動による護岸コンクリートの傷


図4は,洪水時の最大流速が10m/sに達する馬見ヶ崎川の扇央付近の,河岸のコンクリートに残された躍動する礫による損傷痕で,このような傷は,実際に礫をコンクリートにぶつけてみると,数10cm以上の巨礫でないとできない。

 ちなみに,洪水時の濁り水は,多くの粒子が浮流として含まれているからである。

(4) 清水と濁水-流水の能力

 図1を含む上述の話は,浮流等で流水の中に粒子を含まない澄んだ状態=清水での状態での話である。

 しかし,実際の洪水流では,浮流や躍動などによって,たくさんの粒子を含んだ水が濁水となって流れている。
 清水に比べると,濁水では,水中に粒子が含まれるため,その密度や粘性が高い。このことは,同じ流速であっても,濁水の方が侵食・運搬能力が高いということを意味している。

(5) 洪水時の溢れ出しでできる自然堤防

 上述の粒子の運搬形態によって,洪水時の流水中にには,河床近くから水面にかけて大きい粒子から小さい粒子が級化して含まれている。
 このような洪水流が,河道や堤防から溢れ出して洪水が起こると,溢れ出したとたんに,流れの断面積が広くなり,かつ地表に生えている植生などによって摩擦が増えることで,流速が急速に低下する。これによって,流水中に含まれていた粒子は,その粒径と流速との関係で堆積する。
 このような洪水と堆積が繰り返されると,堆積量に応じて,その場所は高まりをつくっていく。
 このようにして川に隣接してできた高まりが自然堤防であり,やがて,人の生活の場に利用されるが,そもそもその場所は頻繁に洪水に襲われるからこそできた高まりであり,100年単位でみれば,頻繁に洪水災害に見舞われる場所である,ということができる(図5)。




図5 自然堤防の逆級化を示す堆積物


 なお,自然堤防では,このような洪水によってできることから,一回の洪水によって,図3のように,洪水の増水過程で,最初は流れの表面付近の水が,増水が進んだ段階では,より水底に近い水が溢れ出す。
 このことによって,それぞれの段階で,それぞれの深さの流水中に浮流で運ばれていた粒子が堆積することで,細粒の堆積物から始り上位に向かって粗粒になり(逆級化),さらに減水期に堆積した上位に向かって細粒になる(正級化),一連の淘汰のよい堆積物が形成される。

(6) 地下水位が高くなければ川は河床を流れない

 扇状地の河川の多くは,上流から流れてきた水が扇頂部から扇央部にかけてのあたりで消え,扇央部は枯れ川となっている。
 扇端部になっていつのまにか水が現れて,再び流れ出す。枯れ川になっている部分では,実は,川の水は,水面が低いために表面に現れていないだけで,河床面よりやや下の地下水となって流れている。
 このような流れの水は伏流水と呼ばれている。

 枯れ川に水が流れるのは,増水した時であり,その増水した水の流れは,馬見ヶ崎川では最大10m/sに近い流速に達する。その際に,上流から多量の砂礫が流されてきて,扇央部に堆積する。その結果,扇央部では河床が高くなっているため,平常時では,河川水の水面の方が低いために,伏流水となるのである。

 このように,扇状地では,扇頂部から扇端部まで川の水が流れるためには,多量の水を流すことで水面(地下水面)を上げる必要がある。

(7) 洪水時の流速変化と堆積する粒子の大きさ

 上流で雨が降ると,河川が増水して流速を増し,雨が止むと徐々に減水して流速も次第に遅くなる(図3)。
 増水開始から平常時に戻るまでの流速の変化によって,同じ場所であっても,運搬・堆積する粒子の最大の大きさも変化する(図6)。




図6 1993年9月末の豪雨で堆積した礫州
 減水時の初期段階には荒い目の部分に巨礫が,減水が進んだ段階で細かい目の部分に小さい大礫~中礫が堆積した。矢印は,礫のインぶりケーションから復元した流向を示す。


 従って,一回の増水によって,上流であっても,同じ場所で大きな礫から砂まで粒子の大きさが小さくなりながら,順次堆積する。このとき,礫ができる際に,岩石の種類によってできる大きさが違うと,洪水のどの段階で堆積したかによって,同じ地点でも,礫種組成が変化することになる。

(8) 扇状地の川=網状河川,沖積平野の川=蛇行河川

 河川の形態は,大きく分けると,直線流路,網状河川(図7),蛇行河川(図8),アナストモイズと,蛇行度によって区分されている。




図7 米国アリゾナ州の扇状地をつくって流れる網状河川(上)と典型的な網状河川堆積物の断面(下)



図8 蛇行河川の模式図と典型的な蛇行河川堆積物の断面


 流速が速く,運搬・堆積する粒子が少ないと,直線流路ができるが,運搬する粒子が多くなると,ちょっとした流速の変化で,粒子が堆積して州ができ始め,その州によって,さらに流れが影響を受けるために一気に州が成長する。やがて,堆積した州によって,流れ自体が州を避けるように流れる。このような繰り返しによって,流れは網目状の流れになる。このような流れが網状河川で,扇状地をつくる河川である。

 一方,扇状地を流れ出て,運搬する粒子が少なくなり,流れもやや緩やかになると,流れの乱れによって州ができても,運搬される粒子が少ないために,州は,河道に対して大きく成長できない。しかし,流れは州によって影響を受けるために,州の反対側の河岸にぶつかるように流れ,河岸を侵食するようになる。河岸が侵食されると,その場所での流れの幅が広くなる。
 河岸を侵食した河岸に向かう流れに対して,州のできているもともとの流路であった部分は,その流れから外れる部分である。そのため,河岸に向かう流れは,その部分にも水を供給しなければならないので,州の側に流れる方向の流れをつくって,その部分に流れ込む。
 このような流れの場所では,河岸を侵食して堆積物を増やした流れは,流れる断面積が多くなるため,流速は低下するため,運搬していた堆積物を落として堆積させる。それによって,さらに流路が対岸側に寄せられて河岸の侵食がすすみ,州の堆積も進む,このような繰り返しによって,曲流が進み,蛇行河川になる。

 網状河川の場合でも蛇行河川でも,流路に州ができると,その州を迂回するように流れが変わって曲流する。その結果,州に沿う部分で流れが遅くなり,州の側面から上面にかけて,より細かい粒子が堆積する。

 ちなみに,山形盆地の河川の場合には蛇行河川と網状河川との境は平均河床勾配が7/1,000で,蛇行河川が流れる盆地底部での平均河床勾配は4/1,000である(図9)。




図9 扇状地をつくって流れる馬見ヶ崎川 沖積平野に入って蛇行が始る。



3 砂場をつかった流れる川の働き実験

 以上のような実際の河川における現象とその原理をもとに,実際の河川と砂場での実験との条件の違いを踏まえて,砂場をつかった堆積実験をおこなった結果を以下に述べる。

1) 実際の河川と砂場での実験の条件の違い

(1) 流量と流速の違い-水深と運搬能力

 実験では,水道の蛇口から伸ばしたホースから給水することになる。流せる水量が少なく,従って,砂場の川に流せる水量は多くなく,水深も浅くなる。そのために,自然の河川に比べて,流速は,同じ河床勾配でも遅くなる。

(2) 河床勾配

 上記のような流せる水量・流速との関係から,河床勾配を自然河川のようには緩くできず,従って,砂場では,自然に蛇行河川を作ることはほとんど無理であり,自然の河川で言えば,扇状地三角州の状態になる。

(3) 粒度組成

 自然河川では,洪水時に上流から流されてくる粒子は,粘土から礫までの大きさが含まれるが,砂場の砂は,ほとんどの場合,砂利採取業者が販売する川砂で,河床に堆積した砂礫を水洗と篩い分けによって泥や礫を取り除かれたものが使用されていることが多い。そのため,砂場では上流で水を流しても,濁り水はあまり生じない。観察のためには都合がよいが,砂の侵食・運搬にとっては都合が悪い。

2) 砂場における実験の実際

 以上のような実際の河川における現象とその原理,自然の河川との条件の違いを踏まえて,小学校の校庭にある砂場を使って流れる水のはたらき実験の実際について述べる。

(1) 砂場について

 ほとんどの学校の校庭に砂場が設置されている。用途としては,低学年の遊び場である場合がほとんどであるが,体育で,幅跳びなどで使用する目的を含めて設置しているところもある。
 前者の場合は,校庭の中でも校舎に近い位置に設置されていたり,場合によっては校庭ではなく,中庭や校舎の裏に設置されていたりする(図10)。規模は,長さ5m程度,幅3m程度のものが多い(図11, 12)。




図10 砂場が水道の蛇口から遠く離れていたために持参したプラスチック水槽でおこなった例




図11 長さ3.5m程度の小規模な砂場での例 急勾配の扇状地三角州となって池に流れ込んでいる。






図12 小規模な砂場の例 砂場の近くに水道の蛇口があり,理科室からのホースと2本で給水した.


 これに対して,後者の場合は,校舎から離れた場所にあることが多く。規模も,長さ10m程度,幅5m程度と大きい物が多い。また,散水用の水栓が砂場の近くに設置されている場合もある(図13)。




図13 長さ10m近い大規模な砂場での例


(2) 実験にあたって用意する物


① 整地するためのスコップ,場合によっては一輪車
 下流側に水を貯める池のための窪みを掘り,上流側に山を築くために使用する。

② 水を供給するためのホース2本
 上流の山から流すためと,池の水を貯めるために,両方に水を供給する必要があり,また,それぞれ個別に水量をコントロールする必要があるので,2本の出口が必要である。水道の蛇口から砂場の近くまで一本のホースで引っ張ってきて,砂場の近くで分岐させても良いが,できれば,別々の水道の蛇口から引っ張ってきた方が,それぞれの出口からの水量のコントロールがおこないやすい。一本で引っ張ってきた場合には,一方の出方を調整すると,片方の出方に影響が出やすいためである。
 筆者自身は,30mのホース,5mのホース2本と分岐栓を持参していくが,学校によっては,砂場が水道の蛇口から離れているために,筆者の持参したホースだけでは届かずに,学校所有のホースを複数接続して,かろうじて砂場に届いたこともある。
 水道の蛇口からの給水が困難な場合,近くにプールがあれば,実際におこなったことはないが,そこから,サイホンもしくはポンプで給水することも可能であろう。

③ 流す材料としての鹿沼軽石(細粒),籾殻燻炭,バーミキュライト,細粒の砂など
 すでに述べたように,砂場での流水実験では,流せる水の流速は遅く,川砂が使用されているために,粒度が荒く,泥分も少ない。このため,自然堤防などを含めた実際の状態に近い河川の状況を再現するのは難しい。また,堆積した地層の累重の様子を観察する場合も,砂場の砂だけでは,累重状態を観察するのは,なれていないと厳しい。
 そのために,色も多彩で,比重の軽いなるべく細粒な物質を流す必要があり,筆者は,ホームセンターや園芸店などで市販されている,細粒の鹿沼軽石,籾殻燻炭,バーミキュライトなどを用意している(図14)。






図14 充分に水を含ませた軽石を流すことで自然堤防を作ることができる


 これらは乾燥状態で袋に入れて売られているが,乾燥状態では比重は1以下で,そのまま流すと流水の表面を浮いて流れて,池にたどり着いても堆積しないで水面に漂ってしまう。そのため,できれば一晩程度水に浸して,十分に水を含ませて比重を1以上にしておく必要がある。

 なお,これらが入っている市販の袋は,空気を逃がすために小さい穴がいくつか開いていて,水漏れするので,買ってきた袋ごと大きいビニール袋に入れてから,商品の袋を開いて完全に浸るまで水を十分に注入する。水を吸収すると足りなくなるので,適宜追加して給水し,全ての粒子が十分に水を吸っている状態にする。

 一方,細粒の砂は,市販のものでは,セメント用の細粒の砂がある。この砂を購入してもよいが,できれば,実際の河川で,洪水時に浮流によって自然堤防をつくって堆積している砂が良い。河川の堤外地(堤防の川側)は,一般に,平常時は荒れ地や畑地で,増水時に水を流す高水敷と,平常時の流路である低水敷と2段になっているが,高水敷まで達する増水時には,浮流によって運ばれた細かい砂や泥が高水敷の縁付近に堆積する。
 ここに堆積した細かい砂を採取できれば都合がよいが,本来,採取に当たっては管理者である国土交通省や県の許可,あるいは畑地の所有者の許可が必要である。許可を得て採取できれば,自然の河川の洪水時に濁り水をつくって堆積した砂であるので,実験においても極めて都合が良い。

④ その他
 実験では,その他,池の水を排水するためのバケツ,堆積した地層を観察するために溝を掘るための草かき鎌等が必要である。

3) 実験の準備

 実験では池となる窪みを掘って山を築き,ホースをセッティングし,最低30分~1時間程度,送水をおこない,十分に地下水位を上げて地表を水が流れるようにし,地表を自然な流れで均しておく。

① 砂場の整地
 長さ数mの規模の砂場では,なるべく流れる距離を稼ぐために,対角線の一方の角に,一辺が1m程度,深さ30cm~40cm程度の穴を掘る。掘った砂を対角線の反対側に積み上げる。川となる砂場表面と池との斜面は三角州ができる場所になるが,三角州の斜面は,一般的には20度~30度前後であるので,その傾斜に仕上げる。
 一方,山の方は,富士山型の山では,水を流し始めると,すぐに侵食されて低くなってしまう。そのため,なるべく横長の広い台地状に積み上げる。斜面は,池までの中間地点を目安になだらかなスロープにし,池側はほぼ水平に近い傾斜で仕上げる。

② ホースの設置
 ホースは,蛇口から,もしくは砂場の直前で分岐した2本のうち,一本を掘った窪みの中に配置し,もう一本は,積み上げた山に配置する。窪み側のホースは,送水によって陸側の斜面がえぐれないようにホースの向きをセッティングする。場合によっては,単に縁から垂らすだけでも大丈夫かもしれない。送水後に,様子を見て調整すればよい。

 山側のホースは,最初,積み上げた山のやや斜面側に,先端が垂直に20cm程度埋まった状態に埋める。

③ 事前送水
 ホースのセッティングが終わったら,30分~1時間程度,あるいはそれ以上送水する。実験を始める前までに,砂場に水を十分に吸い込ませて,砂場の地下水位を上昇させ,地表を流れた水が途中でしみ込んでしまわないようにする必要があるため,および池の水を満水にしておくためである。
 約5mの砂場の場合,山から流した水が地表を流れて池に到達するまで,最低10分~15分程度,また,流した水が池までほぼ全量達するまでに少なくとも30分程度かそれ以上かかる。
 また,山に埋め込んだホースの出口から,山を削って流れ出し,池に達するまでに,途中で斜面の脇に流れ出てしまうことがある。このような場合には,斜面の脇を土手状に高くしておく。

 ホースの出口の部分の地表は,ちょうど泉の湧口のような感じになり,そこから水が斜面にあふれ出る。
 時間とともに,流水は,あふれ出たところを含め,斜面を削って山が低くなるとともに,下流に砂を運んで堆積させ,斜面を成長させる。元々の斜面が平坦であれば,流れは,1時間もすると,自然と位置を変えながら,斜面の端から端までまんべんなく流れるが,平坦でない場合には,流れが斜面の一方のみに偏ることもある。その場合には,高い部分を整地するとともに,湧き出し部で流れの方向をコントロールする。
 また,侵食によって山が低くなっていくので,湧き出し口の部分を中心に砂を足して盛り上げる。

 このような事前送水によって,砂場には網状流路ができ,河口部には,三角州が形成され始めている。

 授業の開始直前に,送水を停止するとともに,低くなった湧き出し口に砂を盛って,元通りに山の形を復元しておく。

4) 授業での実験の実際

 授業では,最初,教室で10分程度,川のはたらきと実験の観察ポイントの話を簡単におこない(図15),その後,運動場に出て実験をおこなっている。




図15 実験前の事前説明


① 実験の開始段階
 送水を始めて,実験を開始する。

 山に埋めたホースの出口から流れだした水は,砂を含みながら,山の表面に湧き出して,斜面を流れ下りはじめる。
 最初は,水を止めていた間に地下水位が下がっているので,砂を運んで流れている最中に水がしみ込んで,粒子が一気に止まって舌状の高まりをつくって堆積する。ちょうど土石流が堆積した状態になる。上から流れてきた砂を含む水は,最初にできた舌状の高まりを避けて,別のところを流れ,同様に舌状の高まりをつくる。次第に水がしみ込まなくなると,水は,表面を流れはじめる。

 なお,もし土石流の状態を観察したい場合には,湧き出て流れ出る部分に土手を作って,ある程度水を貯めて手で攪拌し,十分に水に砂を含ませてから,土手を除いて一気に流すことで,きれいな舌状の土石流の堆積状況を作ることができる。先端および側面に,粗粒な粒子があつまり,最後に流れる水が舌状の高まりの上に溝をつくって細粒な砂を堆積させながら流れ,舌状体を超えてミニ扇状地をつくって堆積させる,

② 流れの可視化
 安定して川が流れ始めると,川の曲流部で側方侵食と州の堆積が徐々におこり始める。このとき,おが屑を少しずつ流すと流れの中での流速の変化が見やすい。

③ 洪水による川の変化  流れの中での流速の変化と侵食・堆積の場の観察がひととおり終わったら,湧き出し口を一旦堰き止め手で攪拌して一気に流すと,下流で洪水が起こり,州の堆積と流路変更の様子が観察できる。

 このときに,鹿沼軽石や籾殻燻炭,細粒砂などを投入すると,川からあふれ出た水によって,浮流で運ばれていた粒子が自然堤防を作って堆積する様子が観察できる。鹿沼軽石や籾殻燻炭は色が特徴的なので,堆積の様子がわかりやすい(図16)。




図16 さまざまな素材を流すことで,流れの様子を可視化できる


④ 遊びを通した実験の興味付けと意識付け
 このような洪水を何回か起こした後,児童対して,家を作るならどこに作るか,安全と思われる場所に,実際に,100円ショップなどで売っているミニチュアの家を置いたり,家の代わりに竹串等を立ててもらう。

 さて,自分の家は洪水の被害から免れられるか。

 子どもたちは,流れによる侵食と堆積の様子をますます真剣に観察するようになる。

 やがて,一軒の家が侵食によって流されてしまうと,両手いっぱい分だけと条件を付けて土手を造ってもいいことにすると,子どもたちは,それぞれ,上流側に砂を盛って土手を造ったりし始める。子どもによっては,石ころを集めてきて積んだり,泥を集めてきて積んだり,工夫を始める。それらの結果がどうなるか。
 このような遊びを通して,さらに川のはたらきの理解が深めることができる。




図17 第5学年児童の観察例


⑤ 排水と断面観察
 ひととおり川のはたらきの実験・観察が終わったら,池の水を掻い出す。

 なお,その前に,時間があれば,池の水を30cm四方程度の大きさのベニヤ板等で,安定した波を起こすことができれば,波が打ち寄せる前浜と後浜,上部外浜のリップルなど,波打ち際の様子を作ることができる。水を掻き出した後には,それらの様子を観察できる。

 水を掻き出した後,池にできた三角州斜面に直交に掘って,断面を観察する。きれいな層(フォアセット)をつくって堆積している様子が観察できる(図18)。この際に,途中で流した鹿沼軽石や籾殻燻炭などが,マーカーとして有効であり,子どもたちも,ほぼ流した順番どおりに地層が積み重なっていることを容易に理解できる。








図18 最後に池の水を抜いて断面を観察する
 フォアセットをつくって堆積していることや,途中で流した軽石や燻炭が砂の層の間に層をなして堆積している様子も見られる.


 川の中流部でも,川を横断する方向に断面を掘ると,川の流れる場所に対応して,地層が削られた窪みを埋めて次の地層が堆積することを繰り返していることを見ることができる。この場合も,途中で流したマーカーが有効である。


4 おわりに

 以上のように,実際の河川で起こっている自然現象の原理と,実際の河川と実験との条件の違いを踏まえて,流れる川のはたらき実験について,ノウハウを含めて紹介した。

 実際問題として,授業時間1校時分45分では足りない。小学校では,準備の都合もあり,お昼前の4校時や午後の最終校時に設定してもらっておこなったが,先生自体が観察中に時間を忘れてしまうほど集中してしまうこともあったりして,1時間を超えてしまうこともあった。できれば,時間が取れるなら,2コマ続きの時間配分でおこなった方が,実験の最初から堆積した地層の断面観察まで,余裕を持っておこなえる。

 事前の準備が大変かもしれないが,より大きいスケールで実験をおこない,かつ遊びの要素を取り入れることで,楽しみながら集中して観察がおこなえることで学習効果も高いと考えられる。本稿を参考に,より多くの学校現場での実践が増えることを期待したい。

謝辞 本稿をまとめるに当たっては,理科支援員等配置事業の特別講師として実際に実験授業をおこなわせていただき,本稿で使用した実験授業の写真を提供していただいた,酒田市東平田小学校,同市中平田小学校,最上町大堀小学校,米沢市興譲小学校,寒河江市南部小学校の先生および児童の皆さんにお礼申し上げる.

引用文献

Hjulstrom, F. (1935) Studies of the morphological activities of rivers as illustrated by the River Fyris. Geol. Inst. Bull., University of Uppsala, 25, 221-527.
文部科学省(1998)小学校学習指導要領 理科.
大瀧 学・川村寿郎(2006)川の流れとはたらきを知るための流水モデル実験器の再検討.宮城教育大学環境教育研究紀要,9, 67-76.


上記をもとにした川の働き大実験の手順を示す動画です
『急流河川の特性を学ぼう ~砂場で川づくり~』
中部地方整備局静岡河川事務所HP防災情報安倍川・大井川の特性(教材ビデオ)

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