2008年岩手・宮城内陸地震による荒砥沢ダム上流域の大規模地すべりの

滑落崖背後の緊急排土工事の必要性はない

工事の前に,1年間以上経過した現時点での精査をおこない,危険性の再評価をおこなうべき


2009年10月21日 公開

川辺孝幸(山形大学地域教育文化学部生活総合学科)・籾倉克幹(基礎地盤コンサルタンツ)・松波孝治・斉藤隆志(京都大学防災研)・
荒砥沢キャニオンを守る会(代表:宮城県栗原市文字荒砥沢「さくらの湯」大場武雄,0228-47-2111)

2008年岩手・宮城内陸地震による荒砥沢ダム上流域の地すべりとその学術的価値について−崖上部の排土は大丈夫か?



■ はじめに

第1図 荒砥沢ダム上流域の大規模地すべり

 2008年岩手・宮城内陸地震によって活動した荒砥沢ダム上流域の大規模地すべりが, 地震以外の通常では再活動しない可能性が高いことは, 林野庁東北森林管理局の山地災害対策検討会の結論(林野庁東北森林管理局,2008)を含めて, 大方の一致するところです.  しかし,2008年岩手・宮城内陸地震のモニュメントのシンボルともいえる140mを超える滑落崖(第2図)に関しては, 崩れる危険性を理由に,3億数千万円の予算で,今年度中に排土する計画がたてられ, 工事が始まろうとしています(第3図).

 東北森林管理局の山地災害対策検討会(座長:宮城豊彦東北学院大学教授)では,頭部の背後にある割れ目から,雨水が浸入することによって,地下で,ガラス質凝灰岩の侵食がすすみ,崖が倒壊し,それをきっかけに地すべりが再活動する恐れががあるとして,頭部から割れ目まで深さ30mにわたって排土する計画です.

 検討に使用された,GPS計測の,地すべり地に向かう方向ではなく崖や亀裂に平行な方向の不可解な移動を示すデータや,地震発生後半年間のデータでは今後も移動し続けるようにみえても,1年間では減衰曲線を描く伸縮計の計測結果など,滑落崖の50m背後に沿って形成された開口亀裂によって崖が崩れる危険性の評価は,現時点で科学的に正しいと言えるのでしょうか?



第2図 荒砥沢ダム上流地すべり周辺の3万年以上前の古い地すべりの際にできた亀裂の分布とレーザー測量差分による冠頭崖と背後の亀裂との間の標高変化(東北森林管理局,2008)
第3図 荒砥沢ダム上流地すべり対策工平面図(案)の一部(東北森林管理局,2008)

 山地災害検討会の結論を含め,亀裂の立体構造の実態も不明なままです.
 ましてや, 仮りに崩壊が起こったとして,100%国有林の範囲で, それは 『災害』と言えるのでしょうか?
 亀裂の成因や立体構造も不明なまま, 工事を行うことは, 逆に工事関係者が災害に見舞われる危険性もあります.

 大規模地すべりの発生から1年以上経過した現時点で, 再度きちんと科学的な検討をおこなった上で, 工事の再検討が必要です.
 人類にとっての貴重な自然災害の教科書として,監視体制を整備した上で,できる限りありのままの姿で保存されることを,強く望みます.


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■ 頭部が大きく動いて崩壊する可能性があるのか?
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■ 冠頭崖背後の現地調査の結果
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■ 実体を明らかにするために必要な調査
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■「崖がばたんと倒れる」可能性はあり得ない
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■文献:
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